怪奇タイヤ男。第1回。

先日テレビで渡辺直美(ビヨンセの真似でお馴染み)が、一番好きな肉の食べ方はステーキだと語っていた。曰く、しゃぶしゃぶとかだと、肉を喰ってる感じがしない、云々。
全くその通りだ。肉はしっかり食いちぎる快感がなければ、肉味のゼリーになってしまう。食いちぎり血の味を味わってこそ、肉を食べたと言えるのだ。そういうことで言えば、和牛よりもオージービーフとかアメリカ牛のほうが好み。
というわけで、ステーキである。それもフランス式のステーキを食べたい。野暮ったい肉に、これまた野暮ったいフライドポテト。愛想ない肉を食べたい。
チョイスした店は、住吉にあるビストロ「ドラード」。最近あの辺りをふらふらすることが多く、以前から目をつけていた。前菜の盛り合わせ、メイン、デセール。という、実にオーディナリーな構成のコースにチリのルージュを注文。

前菜は新じゃがのキッシュ、ホワイトアスパラガス、そしてレヴァーペーストとバゲット。
ホワイトアスパラガスはブイヨンで軽く煮てから焼いて、オランデーズソースをかけてある。とても美味しい。そしてグリーンアスパラガスに比べてか弱いところが素晴らしい。
レヴァーペーストにはブルーベリーのジャムが添えられており、軽く混ぜて食べると一気に味に柱が立つ。バゲットに塗って食べていたら、あっという間に平らげてしまう。こういうところで育ちの悪さがわかる。

そしてメインのステーキはアメリカ牛。ソースとしてラタトゥイユが載っている。焼き方はレアで、堂々たる風格だ。肉にフォークを突き刺し、ナイフで切って口に運ぶ。この一連の動作がもう愉しい。

ふと外を見ると(窓際の席に通されたのだ)悪そうな遊び人が出てきている。空気中に撒かれている殺気がどんどん濃くなっているのを見ながら肉を噛みしめるのは、宇宙船の中にいるような気持ちで、つい苦笑した。宇宙は広いな。こうやって肉を喰っているヤツもいれば、風俗に吸い込まれるヤツもいる。ああしかしうまいなあ。

そしてデセールのスフレも美味しく戴き、満腹で会計を済ませていると別のテーブルでは、鯛のクネールを食べていて、「あ、あれも食いたいな。うまそうだな」と思ったのを告白しておく。