甘い拷問。第五回。ブルジョアになりたい。

「たまにはさあ、魚も食べたいよねえ」
ああ。まあねえ。
「自分ちじゃあさあ、なかなか塩焼きくらいしか作らないんだよ」
そうな。
アクアパッツァ食べたくてもねえ。独りでやるのも、淋しいし」
外で食っても変わらんよそんなん。独りでアクアパッツァもりもり食ってる女って、どうよ。
「じゃあさあ、今度、なんか海鮮食べに行こうよ」
まあ、いいけどね。どこが良いとか教えてね? よく知らないから。

ところで。セレブってどうよ?
「いきなりだなあ……あんまり好きじゃ、ない、かなぁ。なんていうか、下品じゃないですか」
パリス・ヒルトンとか?
「んで、セレブを追いかけるパパラッチ? あーいうのもゲスな感じがしてさあ。嫌い」
そういう方に見せたい映画が、ルイス・ブニュエル監督の「ブルジョアジーの密かな愉しみ」です。
「へえ」
ブルジョア階級、まあセレブ層のカップル三組が、ディナーに興じようとするけれど、毎回ディナーを食べられない。という映画です。
「、、、そんだけ?」
そんだけ。あるときは日にちを間違えて、しょうがなく外のレストランに行ったら、そのレストランではシェフの葬式やってたり、またあるときは、ディナーの約束忘れてセックスしてたり、またまたあるときは、アペリティフの途中で左翼のテロリストに襲撃されたり。まあとにかく、様々な理由でディナーにありつけない。
「そんだけで映画になるの?」
なってるんだよね、これが。映画の途中に、主役の三組のカップルが荒れた道を歩くシーンが挿入されるけど、それがもう、退屈の極みという顔をして歩いているんです。それが、ブルジョア階級の退屈病をそのまま描いていて、分かりやすいです。
ブルジョアねー。確かに退屈そうだわ」
やることもそんなになさそうだもんね。
「そういう暮らし、してみたいなー。働かなくてもお金あるんだもん」
死ぬまでそういう生活も、しんどくないか? 若いうちはメシとセックスで時間潰せるけど、トシとると、いよいよやること無くなるよ? 全てに飽きてさあ。
「だったら早めに死ぬ。早めに自殺するの。うふふふふ」
しょうがねえな、あんた。まあ、あたしも似たり寄ったりだけど。