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ホーチミン市にミラーボールを。#6

クエスト(ミラーボールを買うことと、夜のDJ業務)を終えて翌朝。朝食を摂ってからはPCの前から動かず、取材記事を書く。ベッドメイクのお姉さんが可愛かったので、余計にチップを渡す以外には椅子の上である。腹が減ったらPCの隣にセッティングしたドライフルーツをつまみ、とにかくキーパンチを続けていると、N女史から電話。現地メディアが取材したい、とのこと。原稿仕事に厭きてきたので早速取材を受ける。
相手は、所謂ユースカルチャーを専門に扱うタブロイド紙で、クールジャパンの国からやって来た奇妙なDJに興味があるようで、何故日本人なのにきゃりーぱみゅぱみゅをかけなかったのか? と聞いてきた。何故って、きゃりーちゃんの作品を一枚も持ってないからなのだが、それを正直に言うのは気がひけるので、真面目に考えてこう答えた。
「私の表現したい世界観に合わないからです。きゃりーぱみゅぱみゅさんは好きですけれども、彼女の世界はカラフルで、まあ言ってみれば幼児的ですよね。私はそれよりも、アダルトなムードを紡ぎたいんですよ。DJカルチャー自体、幼児的なものですが、もうそろそろ大人になってもいいのではないでしょうかね? 良いですよ、歳をとるのは」

明らかにしゃべり過ぎた。取材も終わり、また原稿に戻る。


気晴らしに外に出ると、日本人らしき人物が現地の少女を連れて街の裏通りに入っていった。幼児売春か? だとしたらものすごく嫌だ。私にもロリコンの気は、まあ、あるっちゃ、あるが、フィクションの世界の話だし。あんまり小さい女の子にどうこうするって、それって完全な暴力だ。はっきり言って気持ち悪い。

イラついた気分でホテルに戻り、バーで強い酒を呑んでから部屋のベッドに寝転がる。

こうしてホーチミンでの滞在も終わり、名古屋に帰って来たのだが、ここで言っておかなくてはならないことがある。
ホーチミン市伊勢丹は存在しない。ミラーボールは販売していない。ホビロンは食べていない。ナイトクラブは存在しない。DJはしていない。私の文章の載ったB誌は発売されない。N女史という女性は存在しない。ホーチミン市は存在しない。
これは全て嘘であり、私は私の妄想の中にしか存在しないホーチミン市に滞在していたのである。

食べ物がみんな美味しくて、少し前に戦争があったあの街に、一度でいいから行ってみたいものだ。と思いつつ、筆を置くことにする。もっとも、筆を握っていた訳でもないのだが。